りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

月に繭地には果実(福井晴敏)

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この本は映画とタイアップした「ガンダム続編」だったんですね。
もともとのガンダムの物語をまったく知らずに読むというのは無謀だったかも・・。

どうやら本書の時代は、オリジナル・ガンダムの時代からすでに数千年後であり、いったんは荒廃して歴史も文明も失った地球人類は再生過程にあって・・というと『ナウシカ』と一緒ですね。地球が中世的世界であるのに対して、科学技術を保持した一部の人類は月に逃れて、冷凍睡眠を繰り返しながら地球への帰還の時期を待つ・・というのも「ドルクの墓」と近い発想ですので新味はありません。

物語は、地球と月に別れた人類の不幸な再会が戦争という形をとってしまうことから動き出します。地球に先遣調査韻として派遣されていたロランは、月からの帰還作戦が決行された日に「ターンAガンダム」を発掘して無意識的に乗り込み、月の民と戦うことになるのです。登場人物としては、月側には、女神的存在のディアナ、彼女に忠誠を誓う親衛隊のハリー、敵対勢力であるアグリッパや、ガンダムのライバルである「ターンX」を操るギムら。地球側には、ロランと親しくなっていたディアナに瓜二つのキエルとソシエの姉妹や、戦力を手にして野望をむき出しにするグエンら。

文明の埋葬者としての「ターンA」と文明の絶対性を象徴する「ターンX」の戦いがクライマックスのようです。二千年前に対峙し勝利したターンAは膨大はナノマシンで地球の文明の痕跡を消し去り、敗北したターンXは月に落ち延びて復活のときを待ったというのですが・・。

ところで「ガンダム」とは伝統的に、「戦う理由」に悩む少年の物語なんだそうです。確かにグエンやアグリッパの個人的野心は明快ですが、月と地球の二重帰属に悩み続けるロランの最終的な拠り所が女神ディアナへの忠誠心・・となると中世騎士の物語というか、実存主義的物語というか、そういうものなんですね。

2012/8