りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

峠うどん物語 (重松清)

イメージ 1

中学2年生の淑子(よっちゃん)の祖父母が長年営んでいるうどん屋「峠うどん」は、市営斎場の前にありました。そこを訪れる客は、故人と微妙に遠い関係の人たちだということに、よっちゃんは気づきます。知人や親族の命の終わりに立ち会いながら、故人の旅立ちを最後まで見守るでもなく、それでいて真っ直ぐには帰りたくない気分になった参列者の背中をそっと押すのが、一杯のうどんだったのです。

「峠うどん」を手伝うのが好きなよっちゃんが、人生の大切な問題に気づいていく過程を描いた連作短編集は、ベテランの作品らしくこなれています。強いて難を言えば上手すぎることでしょうか。

「かけ、のち月見」葬式で泣けないことは悲しいこと。故人と深く知り合う機会を永遠に失ってしまったという思いは、タマゴと一緒にかきこんでしまいましょう。
「二丁目時代」幼い母にシエーを教えた人気者のおじさんの正体は詐欺師でした。そのおじさんの訃報を聞いた当時の同窓生たちが、数十年ぶりに再会します。
「おくる言葉」接点のなかった講師に終業式で言葉を贈る役になったよっちゃんは・・。

「トクさんの花道」霊柩車運転手のトクさんの元妻が、認知症にかかってトクさんに会いたがっているというのですが・・。
「メメモン」物心ついた頃から寝たきりで、今は死の床についたひいおばあちゃんに教えてもらった、たったひとつのことを思い出した小学生は・・。

「柿八年」50年前の大水害の翌日、若いうどん職人が路上でふるまったうどんは、まずくて、おいしくて、希望の味がしたそうです。そのうどん職人の正体は?
「本年も又、喪中につき」母が病気になって、近代的な医療センターに勤める息子が町医者の父親を責めるのですが、どちらの言い分も正しい時ってあるんです。

「わびすけ」おじいちゃんと、やくざになった旧友との約束とは何だったのでしょう。
立春大吉峠の麓にできた和食処に「峠うどん」の客がとられてしまうのですが・・。
アメイジング・グレイス高校受験の日に自殺した同級生は、顔も思い出せない子。初めてのお葬式で「泣けない悲しみ」を味わったよっちゃんの背中を押してくれたのは、もちろん、おじいちゃんのうどんでした。

2012/3