りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

獅子頭(シーズトォ)楊逸

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ハルビンに生まれて日本に留学し、そのまま日本の文壇にデビューした著者による、中国から日本に帰化した青年の成長物語です。「日本に来て22年たっても完璧な日本人の価値観にはならない」と語る著者の思いも込められているのでしょう。

中国東北部の貧しい村に生まれた主人公の張二順(アーシュン)は、雑技学校に入学してスターを目指したものの怪我のために挫折。料理人の道を歩み始めます。大連の料理学校に入りなおして、料理店の娘・雲紗(ユゥンシャ)と結婚。娘・雲舞(ユゥンユー)も得て幸福でしたが、日本行きを命じられてしまいます。

幼い頃から雑技一筋だった二順は、誠実でおとなしい性格なのですが社会常識に欠けているようです。これに日本と中国の文化や価値観の違いが加わるのですから、何やら波乱を感じさせます。

案の定、二順が働く中華料理店のウェイターを勤める幸子に誘惑され、「妊娠」と言われただけで中国での処刑を怖れ、とんでもない決断をしちゃうんですね。中国に残してきた妻と離婚して幸子と再婚するのですが、幸子のことを愛しているわけでもなく、はじめから「早く離婚して中国に戻りたい」というのですから、これは日本でも中国でも許されないでしょう。

幸子は借金をして二順と小さな食堂を始めるのですが、巨大な肉団子「獅子頭」を得意とする料理人の腕も、そこでは振るいようもありません。やがて元妻の雲紗も日本にやってきて、二順の頭はいっそう混乱していくのでした・・。

二順が得意とするのは、広東、四川、東北と並んで「中国四大料理」といわれる淮揚料理です。永楽帝が南京から北京に都を移した時に北方に伝わったとのこと。「塩を暴走させる東北料理」や「命がけの辛さがある四川料理」と比べて清楚で上品な料理で、今の上海料理のベースとなっているとのこと。

中国食文化を日本で担っているのが「ダメ男」の二順というのが面白いのですが、「日本ではラーメンひとつに中国3千年の歴史などという」ことに笑ってしまったという著者が、日本の読者に向けてわざと仕掛けたプロットなのかも・・。「中国では残した料理に満足する」とか、「日本では手作りが重宝される」など、二順が感じる異文化体験も、逆の立場から楽しめます。

本書のラスト時点で二順はまだ30代前半のはずです。全て自業自得なのですが、女性たちに翻弄され、日本語に苦労し、悩み続けている二順の物語の続きを読んでみたくなりました。続編を書く予定はあるのでしょうか。

2011/12