りぼんの読書ノート

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火車(宮部みゆき)

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先日TVドラマ化された作品の印象が、原作とかなり変わっているように思えて読み返してみましたが、意外なことにストーリーも展開もほとんど一緒でした。

休職中の刑事が遠縁の男性に頼まれて、突然失踪した婚約者・関根彰子の行方を捜索する過程で、全くの別人が関根彰子になりすましていたことが判明します。その女性は何者で、なぜ、どうやって他人の名前や戸籍を奪ったのか。本物の関根彰子はどこでどうしているのか。

女性の失踪原因は関根彰子がカード社会の犠牲となった自己破産者だったことにあったのですが、謎を解く鍵は女性が残した1枚の写真の中に潜んでいたのです。被害者と加害者がそれぞれ「カード地獄」と「サラ金地獄」の犠牲者であったとの斬新な社会派テーマを、登場人物それぞれの思いを見事に描き出しながら綴った、完成度の高い大傑作です。

ではなぜドラマに違和感を覚えたのでしょう。ひとつには小説の中では最後まで「写真」でしかなかった女性が、佐々木望という美貌の女優に演じられ、映像的な存在感が強調されたせいかもしれません。しかし一番大きな理由は、飽和状態となって久しい「カード社会」があまりにも日常となって久しいことにあるのでしょう。もはやクレジットカードが「夢を実現したと錯覚させる魔法の手段」などとは誰も思っていないでしょうし、小説の中で登場人物が語るカードや自己破産の実態など、もはや目新しくはありません。

極めて残念なことに、再読した原作にも同じ違和感が残ったのです。優れた社会派小説が時代背景から切り離されると臨場感を失ってしまうことは松本清張のミステリでも感じたのですが、宮部さんの作品でもそうなんですね。ちょっと寂しい気がします。

2011/12再読