りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

誰かが足りない(宮下奈都)

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こじんまりとしているけれど人気があって、予約を取りにくいレストラン「ハライ」で偶然同じ時間に客となった人々の、来店に至るまでの6つのエピソードからなる物語。皆それぞれ事情を抱えながら、前向きの決心をするために来店するのです。

故郷を出て8年、思うような就職も出来ずにコンビニでの仕事に慣れてしまった男性は彼女からも「本物ではない」と言われてしまいます。彼を「故郷に帰ってみよう」と、「彼女が本物と言ったレストランに行ってみよう」と思わせたきっかけは?

認知症の入り口にいる老夫人は、亡くなった夫の記憶を失うことを怖れているのですが、息子夫婦や孫のために料理をして、夫が好きだったというレストランと張り合っていたことを思い出します。「あのレストランに連れて行ってもらえばよかった」との気持ちは息子夫婦に通じるのでしょうか。

係長になってから責任も残業も増えて疲れてしまったクミは、幼馴染のヨッちゃんが実家に戻ってきたことに気づきます。中学生になってから不良になってしまった彼は、本当は優しい男の子でした。今度、行ってみたかったレストランに誘ってみようかな。

母が亡くなってから引きこもりになった兄は、ビデオを構えないと人と接することができません。そんな兄と普通に接してくれたのは、いじめにあっていた友人でした。兄を気にかける妹の思いは通じるのでしょうか。

ホテルのビュッフェで毎日オムレツを焼いている料理人のタマゴが、ふとしたことから芝居の勉強をしているという女性と知り合います。きっかけは女性の祖母が作っていたふわふわ玉子焼きの思い出でした。一緒においしいオムレツを食べにいこうよ。^^

幼い頃から「失敗の匂い」を嗅ぎ取ってしまう女性に、「失敗は絶望ではない」と気づかせてくれたのは、幼いころに叔父が事業に失敗して失踪してしまい、その後は出会うことがなかった従妹との再会でした。やっぱりお祝いしなきゃ、ね。

気を揉みながら約束した相手を待つひととき。「誰かが足りない」と思う気持ちが、「誰かが足りないと思えるのは幸せなこと」と変化していきます。それは「足りない誰かを待つことができるから」なんですね。^^ こんなステキなレストランには「特別の日」に行ってみたいものです。

2011/12