りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

花紋(山崎豊子)

イメージ 1

大学で文芸を専攻した主人公は、戦中に世話になった御寮人様が大正歌壇に彗星の如く登場して突然消息を絶った美貌の女流歌人「御室みやじ」であったことに気づきます。しかし国文学者の荻原秀玲が編纂した歌集では、彼女は昭和2年に20代半ばの年齢で夭折したと記載されており、それを疑問に思った主人公は歌人に生涯仕えた老女中を尋ねて、御室みやじの生涯に迫ります。

河内長野の大地主の総領娘として生まれた「御室みやじ」こと郁子は、養子を迎えて家を相続することが義務付けられていたのですが、継母や妾腹の叔母たちとの諍いから、自らの運命をうとましく思いながら育ちました。

和歌の道に生きがいを求めるようになった郁子は、歌壇の選者を務めていた荻原秀玲と宿命の恋に落ちるのですが、農村の苛酷な因襲は結婚を認めてくれるはずもありません。やがて荻原はドイツに留学。死の床についた祖父の命をかけた願いに負けて婿を向かえ、息子を得るのですが、それだけでは自らの生を世間から葬った理由とはなりません。そこには、ドイツから帰国した荻原との「運命の一夜」が関わっていたのです・・。

「御室みやじ」のモデルは「石上(いそのかみ)露子」という実在の歌人です。若い頃から「明星」に小説や短歌を投稿し、与謝野晶子や山川登美らと並び称されていたものの、親が決めた結婚相手から文筆活動を禁じられて歌壇から消えた女性。

しかし著者は、本書を「自伝のような作品」と呼んでいます。大阪の老舗商店に生まれて旧制女専卒業後、新聞社に就職しながら小説を書き続けた山崎豊子さんと「御室みやじ」の間には、あまり共通点があるようには思えませんが、「女性が書く」こと自体が難しかった時代の先人に共感を抱いたのかもしれません。ひょっとして、山崎さんが独身を通したことと関係があるのかも・・。

2011/12