りぼんの読書ノート

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巨人たちの落日(ケン・フォレット)

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巨匠ケン・フォレットの描く、20世紀をテーマにした「百年3部作」の第1作は、欧米各国にまたがる5家族・8人の主人公を中心に、第一次世界大戦ロシア革命を描いた大河ドラマです。「巨人たち」とは、戦前の欧州を支配していた者たちのこと。落日を迎えるのはドイツとロシアの帝政であり、イギリスの貴族政なのです。

ロシア皇女のビーを妻に迎えた若き英国伯爵のフィッツは、伝統的価値観の持主で、戦争回避に心を砕きながらも、大戦開始後は英国軍将校として戦場に赴きます。一方でフィッツの妹モードは、貴族でありながら婦人参政権運動を指導するほどの男女平等論者ですが兄の友人でドイツ人のワルターを愛してしまい、戦争によって引き裂かれてしまいます。

ドイツの高級軍人で皇帝の側近である父を持つワルターは、ドイツ大使館員として戦争回避に努めますが歴史の流れには抗えません。帰国直前にモードと秘密結婚を果たしますが、ドイツ軍将校として出征し、戦場でフィッツと相対します。

フィッツの所有する炭鉱で働いていたビリーは志願して従軍し、フィッツの率いる軍に配属されますが、彼が戦場で見たものは英国軍の上官たちの無力さでした。ビリーは貴族制度そのものに疑問を抱くようになっていくのです。

町一番の才女で美人だったビリーの姉エセルは伯爵家のメイドを務めていましたが、フィッツの子を身ごもって屋敷を追われてしまいます。ロンドンに出てきた彼女は女性運動に加わるようになり、モードの片腕となって頭角を現わしていきます。

ロシアの軍需工場で働くグリゴーリィとレフの兄弟は、帝政の残虐な行為によって両親を失っています。レフは身ごもった恋人カテリーナを置き去りにしてアメリカに逃れ、グリゴーリィはカテリーナを世話するうちに愛するようになっていきます。戦争を生き延びたグリゴーリィが身を投じた先はボルシェビキ運動でした。

アメリカ上院議員の息子ガスは、大統領ウィルソンの側近として欧州情勢を分析し和平案を提案しますが、やがてアメリカが参戦するとやはり戦場に赴きます。

うわっ。人物紹介だけでこんなに長くなってしまった・・。ここには登場人物たちの「歴史の縦糸」との関わりだけを書き留めましたが、本書は歴史ドラマであるだけでなく、冒険や恋愛や家族関係のドラマでもあり、楽しみながら読み進めることができます。

女性代表として議員となったエセルが、父親を知らない息子をフィッツに挨拶させるラストシーンは感動的ですが、物語はここで終わるのではありません。この後、革命ロシアでは権力闘争と粛正の嵐が吹き荒れ、ウィルソンの国際連盟案は議会で否決され、巨額の賠償金を負ったドイツにはナチスが誕生して、世界は再度の大戦に引き込まれていくことを読者は知っていますし、本書の中でもその予兆は既に現れているのですから。

2011/12