りぼんの読書ノート

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不愉快な本の続編(絲山秋子)

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不愉快な本を握りしめて彷徨する、嘘つきで変態で金貸しでヒモ野郎の主人公。年上の女との爛れた関係にうんざりして東京を逃げ出し、新潟で出会った女性を本気で好きになって結婚しながら「不愉快な過去」を共有できない妻とは結局は別れてしまい、富山の美術館からジャコメッティを盗み出して盗癖のある女にプレゼントし、故郷の呉に戻って太陽を見上げるのです。

「なぜ出て行くかって? そりゃボクが生まれながらのヨソ者だからだよ。」常に過去を断ち切ろうとしている主人公には、現在しかありません。だから「永遠のヨソ者」なんですね。

故郷の呉に戻ると実家は火事で失われ、家を継いでいたはずの弟の墓標を見出し、彼と現実を繋ぐ最後の絆であった家族との関係も切れてしまっていました。彼にはもう「太陽と時間が溶け合う永遠」に向かっていくしかないのです。「不愉快な本の続編」になるために・・。

「不愉快な本」とはカミユの『異邦人』です。そういえば主人公が彷徨っていたのは、どこも海が見える町ばかりでした。主人公の乾は、短編集『ニート』に収められている作品「愛なんかいらねー」に登場した人物だそうです。未読でした。

2011/12