りぼんの読書ノート

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さよなら、愛しい人(レイモンド・チャンドラー)

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アメリカのパルプフィクション時代に生まれたハードボイルドの元祖、私立探偵のフィリップ・マーロウシリーズの代表作が、村上春樹さんの新訳で今に甦りました。

時代は1940年代。舞台はロサンゼルス。刑務所から出所したばかりの大男ムースが、8年前に別れた恋人ヴェルマを探しに昔馴染みの酒場にやってきたものの、経営者も変わっていてヴェルマは行方不明。経営者の対応に怒ったムースは殺人を犯してしまいます。

殺人を目撃したマーロウは、警察に協力してムースとヴェルマの捜索を始めますが、別件の宝石強盗事件の被害者の護衛を務めた際に殴打され、監禁されてしまいます。しかもその事件の依頼主も、ヴェルマの過去を知っている老婆も殺害されてしまい、捜索は暗礁に乗り上げたかに思えたのですが、実は全てが繋がっていたのでした。鍵を握る女性ヴェルマは、今どこに・・。

こんな風に紹介してしまうと、本書の魅力は伝わりませんね。金はないけどダンディで、女と友情にはやたらと弱いフィリップ・マーロウというキャラの魅力は、めっぽうキザでありながら倦怠感の漂うセリフにあるのですから。

蠱惑的な悪女ヴェルマの魅力や大男マロイの純情さはマーロウのセリフで際立ち、哀しい男女が引き起こした哀しい事件もマーロウのセリフで昇華されるのです。結びの一文だけでも紹介しておきましょう。

「涼気の感じられる日で、空気は透明だった。遥か遠くまできれいに見渡すことができた。しかしさすがにヴェルマが向かったところまでは見えなかった。」

2011/11