りぼんの読書ノート

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エデン(近藤史恵)

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サクリファイスの続編にあたります。白石誓こと「チカ」が、尊敬するストイックな先輩・石尾の「究極のアシスト」によって、自転車ロードレースの本場である欧州のチームに加わってから3年後。スペインからフランスのチームへと移籍し、念願だったツール・ド・フランスへの出場を前にしたチカに、スポンサーが今期限りで撤退することが告げられます。

チーム存続のために監督が打ち出した方針は、ライバル・チームの新人エース・ニコラをアシストするとの奇策でした。長らくフランス人のチャンピオンが出現していない大会で新鋭のフランス人が活躍すれば、レースの人気が高まって、新たなスポンサーを呼べると踏んだのです。

当然、自チームのエースであるスウェーデン人のミッコはおもしろくありません。チームエースの優勝とチーム存続の可能性のどちらを取るのか、チームはバラバラになってしまいます。揺れる思いの中、愚直にミッコのアシストに徹することを決めたチカでしたが、最終盤の決戦を前にして思いもよらないアクシデントが・・。

本書で描かれるのは、互いに重いものを背負って走るレーサーたちの交流と孤独ですね。それと、前作もそうでしたが、ロードレースの駆け引きのおもしろさ。

タイトルは、憧れの舞台に立ったチカが「ここは本当に楽園なのだろうか」と悩む気持ちから。でも叩きのめされても苦しんでも、そこは世界の頂点であり、そこに居続けたいとの気持ちを起こさせる場所は、間違いなく「楽園」なのでしょう。たとえ下級の神々にとっても・・。

欧州のロードレース界にも存在する差別感覚や、ドラッグの問題への踏み込みが、もう少し欲しいようにも思えますが、著者は物語のリズムを大切にしたのでしょう。疾走感あふれる作品に仕上がりました。

2010/10