りぼんの読書ノート

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満州国演義2 事変の夜(船戸与一)

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満州国の成立から滅亡までを対象とする壮大な歴史クロニクルの第2巻。本書では1931年9月に起きた満州事変の前夜から、1932年1月の第一次上海事変に至る時期が描かれます。それぞれ異なった立場から満州国と関わっている敷島4兄弟も、歴史の激動に巻き込まれていかざるをえません。

奉天の日本領事館で参事官を務める太郎は、関東軍が政府を無視して謀略を進めていることも、それが日本を国際政治の中で孤立させていくことも理解しています。事態を憂慮しながらも軍に異論を唱えることもできず、無力感に襲われます。

自らが首領であった馬賊部隊が卑劣なライバルに全滅させられた次郎は、復讐を遂げますが、無気力状態に陥っていたところを特務機関に利用され、謀略馬賊として日本軍に協力をすることになっていきます。

関東軍憲兵隊中尉となった三郎は、長春近辺に入植した朝鮮人農民が中国人に襲われた万宝山事件や、大興安嶺の立入禁止区域を密偵していた陸軍参謀の中村大尉が張学良配下の屯墾軍に殺害された事件を捜査し、「中国の横暴」との世論形成に一役買うこととなります。

特務機関の陰謀で阿片中毒となりかけて罪を犯した四郎は、特務機関の手先として使われることとなってしまいます。上海の市井に潜入し、新興宗教や孤児院の実体を知るとともに、それらを侵略の道具として使おうとする特務機関を嫌悪しながらも、そこから逃れるすべはありません。

日本軍の醜い面を代表するかのような存在であり、敷島4兄弟に執拗にまとわりついている特務機関員こそが、本シリーズのスメルジャコフたる間垣です。4兄弟の苦悩をあざ笑うかのように、満州で、上海で戦火が起こり、日本はついに泥沼に足を踏み入れていくことになるのですが・・。

次巻は、いよいよ満州国の建国です。

2010/8