河出書房新社の「奇想コレクション」は、もう18冊も発刊されているんですね。そのうちの3冊を占めているスタージョンは、エース的存在なのでしょう。はじめに発刊された本書は、SF的サイコ・ミステリの色彩が強い第2短編集の『輝く断片』よりも、著者のイノセントな優しさが際立つ作品が収められています。
「高額保険」貨物を盗もうとした男がたどり着いた所は刑務所? それとも・・。捻ったアメリカン・ジョーク的な短い作品で、20歳のときの処女作です。
「もうひとりのシーリア」覗き見趣味の男が,生活感のまったくない女性の部屋で見い出したものは、女性の抜け殻でした。怖いのは未知の隣人?それとも覗き見男?
「影よ、影よ、影の国」母親に叱られて部屋に閉じ込められた少年の影絵遊びから生まれてきたものとは・・。子どもは残酷!
「裏庭の神様」裏庭から掘り出した異様な神様が男に与えたのは、語ったことが全て真実になる能力。間違っても「死んでしまう」なんて言ってはいけません。
「不思議のひと触れ」「どこにでもいる平凡な男に不思議のひと触れが加わると、ほら見てごらん。そしたら、そこから先、彼の人生は死ぬまでずっと本物なんだよ」ここに登場する男女は、それぞれ人魚と駆け落ちしようとしていたのですが・・。
「ぶわん・ばっ!」一流のドラマーになるには、利用できるものを何でも使わないといけません。驚くべきことに、それは「卑劣な手段」ではありませんでした。^^
「タンディの物語」寄生体が宿主と共生する秘訣は、宿主を幸せにすることなのです。では、人間に宿った宇宙的寄生体がもたらしてくれたものとは・・。
「閉所愛好症」宇宙飛行士候補生となった弟に、いつもいい所を奪われ続けてきた兄。でも、真の宇宙飛行士に適した性格は何なのかを、宇宙種族が告げるのです。
「雷と薔薇」核攻撃を受け壊滅した国の秘密基地を訪れた女性スターの秘密に触れて、軍曹はある決意をするのです。女性スターがメッセージをおくった相手とは?
「孤独の円盤」小型の円盤からメッセージを受けた女性は、それを聞き出そうとする軍やFBIにつきまとわれます。それは秘密でも何でもなかったのに・・。
孤独な男女が出会う、「不思議のひと触れ」と「孤独の円盤」が最高です。出会いのきっかけは人魚でなくても、円盤でなくても、平凡な男女が出会って恋に落ちることこそ「不思議」なことなのでしょう。『輝く断片』を先に読んでしまいましたが、やはり順番に読むべきでした。
2010/8読了