りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エスケイプ/アブセント(絲山秋子)

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闘争と潜伏に明け暮れた20年の末に、気がついたら40歳になっていた活動家。長い悪夢から覚めたような主人公・正臣は、妹が開いた託児所を手伝うために郷里に戻る前に、あてのない旅行に出るのです。

失うものも、信じられるものもない。あるのは小さな自由だけ。イメージは、意味もなく極点を目指して歩くペンギン。東京駅で飛び乗った列車は、昔懐かしい「銀河」。たどり着いた先は、かつて双子の弟が住んでいた京都。怪しげな神父・バンジャマンと出会って長屋の教会に居候生活をしていた正臣は、壊れた「自由」を投げ捨てるのですが・・。壊れた「自由」の正体は?

双子の弟である和臣の20年後を描いたのが、併禄されている「アブセント」。元ノンセクト・ラディカルで、セクト主義の兄・正臣と袂を別って以来、ずっと「休暇中」のような生活をおくっていた和臣は、事故死した旧友の両親に会いに博多から京都まででてくるのですが・・。

双子の兄弟は、比叡山と琵琶湖から、互いの存在を認め合えたのでしょうか? リズム感のいい文章から、青年期を無駄に投げ捨ててしまったかのような2人の人生に対する思いが浮かび上がってくるようです。

2010/4