りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

SOSの猿(伊坂幸太郎)

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孫悟空は、体毛の一本一本を自らの姿に変える分身の術を使うのですが、その体毛はその後本体に戻るのでしょうか。それとも抜けた体毛として死に絶えるのでしょうか。もそも、本体にも戻らずに生き延びた分身がいて、その「気」が現実世界に広がって、誰かに憑依してしまったら、何が起きるのでしょうか。過去にも通じ、未来も見通せる能力を持ちながら、自らが振るう暴力が正義かどうかを悩む存在に憑依されたら・・これは「悪魔憑き」とは違うのでしょうか。

困っている人を見ると助けずにはいられない二郎は、イタリア留学中にエクソシストの見習いをした経験があり、副業で「悪魔祓い」をしています。幼馴染みのお姉さんからひきこもりの息子について相談を受けますが、彼はなんと「孫悟空憑き」だったのです。

孫悟空」は、半年後の未来に起こる、ある出来事について語ります。それは、因果関係を追及する「超論理的思考人間」の五十嵐真が、300億の損失を出した株の誤発注事件の捜査をする物語なのですが、なんせ語っているのが「孫悟空」ですから、女性プログラマーが色っぽい蜥蜴に化身したり、証券会社の部長が牛魔王になったりと、「西遊記」の世界が入り混じる、不思議な物語が繰り広げられるのです。そして半年後、二郎が検証する「未来の現実」とは・・。

ユングが予感したという「大きな出来事=第一次大戦」はともかく、「善悪の対立」が鮮明なキリスト教の「悪魔祓い」と、「善悪の戦いに決着がつかない」アジア的なバロンダンスを対比させたりと、最後まで「猿の話」が意味不明な構成ともに、途中経過は楽しめます。ただ、惜しかったのが「本当に悪いやつ」を懲罰することになるエンディング。因果関係の追及が、そこで止まることになるとは思えませんでしたので・・。

2010/4