りぼんの読書ノート

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風の武士(司馬遼太郎)

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司馬遼太郎さん初期の伝奇小説です。伊賀同心の末裔で貧乏御家人の弟である柘植信吾は、いわゆる冷や飯食いの身分で、腕は立つものの将来のあてもなく、24歳になっても無為の日々を過ごしています。ところがある日、代稽古を行なっている剣術道場の用人が何者かによって殺害された事件に巻き込まれたことから、彼の運命は一転。

その道場は、千年もの間、熊野の秘境にひっそりと存在し続けているという安羅井国(やすらいこく)と関係のある存在であり、そこに秘蔵されている莫大な財宝を狙って幕府と紀州藩が動き出すのですが、両者の隠密同士の暗闘に巻き込まれてしまうのです。老中からの密命を受けて安羅井国探索に乗り出した信吾に、闇の軍団が襲い掛かります。死闘の末にたどり着いた地で、信吾が見たものとは・・?

かすかな手がかりを伝って探索を進める過程や、陰謀も暗闘も恋愛も面白いのですが、本書のポイントは、安羅井国の正体ですね。「やすらい」という言葉自体が大きなヒントになっているのですが、これは最後までわかりませんでした。

隠れ里を「かぐや姫伝説」と結びつけるというのは、最近読んだおたから蜜姫と同じ発想なのですが、もちろんこちらのほうがずっと先に書かれていますので、米村さんは、この本から着想を得たのかもしれません。主人公が導かれていく先は全然違いますけどね。

おもしろいのは、安羅井国から戻った主人公が一種の「浦島太郎状態」になってしまったこと。下界と隔絶された地域で冒険している間に徳川幕府は瓦解してしまい、親族も知人もバラバラ。主人公が知っていた江戸は、別の国になってしまっていたのです。これも「かぐや姫」の呪いだったのでしょうか?

2010/1