この街でイタリア系の若い男性が殺害され、ラポアントと新人刑事ガットマンが捜査にあたります。というと警察ミステリのようですが、本書の真の主役は「メインという街そのもの」と言うべきですね。
モントリオールはもともとフランス系移民が多い街ですが、イタリアやポルトガルなどのラテン系やユダヤ系、さらには中国系の移民なども、吹き溜まりに流れてきている一方で、巨大な隣国の影響で英語を話せることが成功への第一歩になりつつあった時代。
そんな中で底辺の人たちの感情や性向を把握して、こわもてでオールドスタイルの捜査を貫いているのがラポアント警部補です。犯罪者に自白を強要したり、勝手に外出禁止を言い渡したりと好き放題にやっているようですが、ひとりひとりの住民を知った上でのことであり、彼なりの公平さの基準に立って現実的な対応をしているつもりなのです。実は彼は、かつて新妻を亡くした喪失感を今に至るまで引きずっているんですね。いわば、旧世代を代表する存在。
相棒となったガットマンは、若い大卒の刑事で「法の前の平等」を貫こうとする堅物で、警官も「新旧交替」の時期に指しかかっていることを読者に強く意識させる存在です。再開発が進むメインの街も人も様変わりしようとしているのですが、では旧いものは黙って消え去っていくしかないのか・・。
冒頭近くに、ラポアントと神父らが交わす「神の前の罪」である「罪悪(shin)」と、「法の前の罪」である「犯罪(clime)」についての論議があるのですが、議論すればするほどに両者の定義はあいまいになっていくようです。このようなあいまいさを許さないのが「新しいスタイル」であるのなら、「旧い者」はまだ消え去ってはいけないのでしょう。
2010/1