りぼんの読書ノート

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山田風太郎明治小説全集13~14 明治十手架

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地の果ての獄で地獄のような北海道の獄舎を巡回して、罪人保護を訴え続けていた日本最初のキリスト教教誨師、原胤昭の若き日の物語。16歳の時に明治維新を迎えた元八丁堀与力の原胤昭は、懲役場として牢獄のようになっていた石川島(現在は佃島の一部です)に職を得ていましたが、囚人には残酷で元幕府役人を冷遇する看守や巡査に恩人を殺害されたために辞職し、恩人の娘である美しいクリスチャンの姉妹やヘボン医師に影響されて出獄人保護の仕事を始めます。

ところが、新政府の看守や巡査たちは、彼を放っておいてはくれません。やがて悲劇が起こり、クリスチャンの精神に心打たれた5人の非道な悪漢たちが心を入れ替え、更なる悲劇を防ごうと原胤昭を守って、5人の腕自慢の看守たちと死闘を繰り広げます。秘剣や妖銃を操る看守らに対するのは、怪力、スリ、変装術、色仕掛けなどの特技。おぉっ、これは山田風太朗さんお得意の『忍法帖』のような展開ではありませんか。面白くないはずがありません。「明治小説シリーズ」の棹尾を飾るに相応しい作品に仕上がっています。タイトルは、「両鉤十手」の両端が欠けてあたかも十字架のような形状となった、原胤昭の獲物から。元与力でキリスト教に心惹かれる主人公にぴったりの、両義性を持った武器なのです。

ところで、このシリーズの特徴として、同時代の著名人の「ゲスト出演」がありますが、本書では、岸田吟香、星亨、河野弘中、ヘボン医師らが重要な役割で登場。漱石、子規、一葉などは、もはやこのシリーズでは常連のようなもの。^^

さらには、浅田次郎さんの天切り松闇がたりの仕立屋銀二や、中島京子さんのイトウの恋イザベラ・バードなど、他の著者の作品で知った実在の人物も本書で姿を見せてくれますし、そもそも本書の主人公の原胤昭だって松井今朝子さんの銀座開化おもかげ草紙で重要な役割を担っているんです。明治初期を彩る人物たちのクロスオーバーぶりは楽しいものです。

ロシアのニコライ皇太子を襲った津田三蔵巡査を取り押さえて一躍英雄となった車引きの「その後」の悲喜劇を描いた『明治かげろう俥』と、ロンドン留学中の漱石がホームズと出会う『黄色い下宿人』が併録されています。

ついに、山田さんの「明治小説シリーズ」も最終巻を読み終えてしまいました。寂しい限りです。

2010/1