りぼんの読書ノート

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グラーグ57(トム・ロブ・スミス)

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チャイルド44から3年後の物語。レオ・デミドフを主人公とした3部作の第2作目にあたります。このシリーズの要約はよくできていますね。前作でもそうでしたが、これ以上の説明を書けませんので丸写しさせていただきます。
【上巻】運命の対決から3年。レオ・デミドフは念願のモスクワ殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しも、フルシチョフは激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る・・。世界を震撼させた『チャイルド44』の続編、怒涛の登場。
【下巻】レオに突きつけられた要求は苛酷をきわめた。愛する家族を救うべく、彼は極寒の収容所に潜入して、自ら投獄した元司祭を奪還する。だが、彼を待っていたのは裏切りでしかなかった。絶望の淵に立たされ、敵に翻弄されながらも、レオは愛妻ライーサを伴って、ハンガリー動乱の危機が迫るブタペストへ。国家の威信と個人の尊厳が火花を散らした末にもたらされる復讐の真実とは・・。
それまで絶対視されていた体制や思想が崩れ去った時の「揺り返し」は凄まじい。スターリン体制のもとで投獄されていた政治犯たちが釈放されて、それまでの体制派が報復を受けた・・などということは、どの程度あったのでしょうか。しかも、それを「揺り戻し」の口実に使おうとする旧体制派もいるのです。

体制に「強制されて」、「しかたなく」、犯罪的な行為に手を染める者は、古今東西列挙にいとまがありません。それは決して戦時中や恐怖政治下のことだけではなく、企業の中での不正行為や、学校でのイジメなど、あらゆるところで見受けられます。信念に基づこうが、無自覚だろうが、ためらいながらであろうが、結果は一緒。そういう行為は許されるべきなのか。罰せられるべきなのか。誰が裁くのか。

前半の強制収容所暴動で、後半のハンガリー動乱で、同じ主題が繰り返し現れます。主人公のレオに突きつけられたのも、「復讐」と「贖罪」の問題にほかなりません。彼に迫るのは、かつて彼が投獄した者であり、同僚が射殺した夫婦から引き取って幼女としたゾーヤであり、何より彼の良心なのですから・・。

前作で、国家保安局(KGBの前身)の捜査官であることに疑問を感じて職を辞し、モスクワに殺人課を立ち上げて、妻のライーサと和解したことが、全部吹き飛んでいくような展開はスリリング。シリーズ完結編となる次作が待たれます。

2010/1