りぼんの読書ノート

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夕映えの道 (ドリス・レッシング)

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1970年ころのロンドン、40代後半の年齢で、高級女性誌の副編集長ともなればキャリアウーマンの走り、というより既に人生の成功者。でも彼女ジャンナは、立て続けに母と夫を癌で亡くして、自分の孤独な生き方について考え直そうとしています。とりわけ、自分が失った大切な人と心からの対話をしていなかったと後悔しているのです。

そんな時に近所の薬局で90歳すぎの一人暮らしの老女モーディと出会い、彼女を狭く汚れた家まで送り届けたジャンナ。彼女はモーディの独立心旺盛な強い個性に惹かれて話し相手になり、やがて世話をするようになっていきます。当時のイギリスには、「よき隣人」という上流階級の女性たちのボランティア組織があったそうです。周囲からは「ボランティア」とおもわれてしまったジャンナですがそう言われるたびにジャンナは怒ります。

それではそれは、十分なことをしてあげられなかった祖母や母への代償行為でしょうか。それとも、年齢も生い立ちも階級も異なる2人の女性の、奇妙な友情なのでしょうか。物語はそこのところを明確にしていきません。ジャンナ本人だって、よくわからない気持ちだったのでしょうから。

ただ誰にでも訪れる老いや病の問題について、ジャンナは今度は目をそむけませんでした。なりふり構わず「自活」にこだわり、癌になっても「受容期」には至らず最期まで怒っていたモーディと、正面から向き合い続けるのです。

ジャンナは悟りを開いたわけでもなんでもありません。職場では変わらず有能だし、彼女を慕って同じ道を歩もうとする姪のジルにも厳しい。ただ、老いや病と正面から向き合うことは、当たり前のようだけど大変なことであり、大切であることを感じることができる本なのです。映画化もされたとのこと。

2009/11