りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

神去なあなあ日常(三浦しをん)

イメージ 1

三浦さんの「お仕事系青春小説シリーズ」(勝手に命名)に属する作品です。横浜の高校を卒業してすぐに、三重県の山奥にある神去(かむさり)村に放り込まれ、林業に従事するハメに陥ってしまった平野勇気クンの1年間。

林業ですよ、林業。木を切り倒す腕力だけでなく、山歩きや木登りの技術も必要な、過酷な肉体労働。最低でも100年先を考えて森のお世話をする気の遠くなるようなお仕事。娯楽施設どころか、スーパーもコンビニもなく、ケータイも通じない山奥で、若者も離れ、嫁も来ず、過疎が進む地域。

小説ですから山仕事や村の生活はデフォルメされていますし、人間関係も密度が濃い。神去村の林業は、手付かずの山林を抱え、優秀な青年経営者がいて、古事に通じた老人や、木こりの化身のような超人的な先輩もいる。それに加えてなぜか美人の産地? 本書で描かれる世界は「ゆる~い理想郷」であり、現実は遥かに厳しいはず。

でも著者が描きたいのは「シリアスなドキュメンタリー」ではありません。日本人が古来から共存してきた「山」の神秘性を伝え、敬虔な気持ちで自然と接する人々の存在を伝え、そこで純化されていく人間関係を通して成長していく青年の姿を魅力的なものとして伝えたかったのでしょう。「神隠し」や「祭り」のエピソードに姿を見せる「山の神様の化身?」も必要でした。

「なあなあ」とは、オールマイティな意味を有するかのような、土地の方言ですけど、しをんさんの造語だとのこと。雰囲気は出ています。^^

2009/11