りぼんの読書ノート

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スコットランドの黒い王様(ジャイルズ・フォーデン)

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タイトルの「スコットランド王」とは、ウガンダの独裁者であったイディ・アミンのこと。クーデターによって旧英連邦領ウガンダの大統領となったアミンは、スコットランド独立を主張する勢力と勝手に共闘し、勝手に「スコットランド王」を名乗っていたんですね。

本書は、アミンの主治医を務めたスコットランド人の青年医師ニコラス・ギャリガンの視点から、アミンのカリスマ的な狂気と恐怖、アフリカの政治・社会の混沌とした複雑さを綴った作品です。「ラストキング・オブ・スコットランド」のタイトルで映画化もされました。

アミンがオボテを追い落としたクーデターの当日にウガンダに到着した青年医師は、僻地での医療に従事して、アフリカの貧困と無知と病との闘いに明け暮れるのですが、当地を訪れた際に交通事故で軽傷を負ったアミンを治療したことをきっかけに独裁者から気に入られ、主治医に抜擢されます。彼がアミンの傍らで見たものは、数十万人も虐殺したと伝えられる拷問や処刑、反アミン的な言動を許さない恐怖政治、アジア人追放などの独裁者の狂的な政策が招いた混乱と経済麻痺、軍の横暴などの地獄絵図。

それでも彼はアミンの持つ「あふれんばかりのオーラ」に惹かれてしまうのです。イギリス大使からの「アミンに薬物投与をせよ」との指令には従えず、後に西洋人にも危険が及ぶ事態になっても、彼の側を離れられません。それは、アミンが隣国タンザニアに侵略して敗北し、逆に首都カンパラまで攻め込まれて失脚、サウジアラビアに亡命するまで続くのです。まるでアミンの虜になったかのように・・。

本書を貫くアミンの狂気から浮かび上がってきたのは、逆説的なことに、アミンが持っていたカリスマ的な魅力でした。カリスマとは、利害や制度や暴力で人を服従させるものではなく、心的影響力で支配する存在であることが理解できます。だからこそ、怖ろしいのですが・・。

2009/7