りぼんの読書ノート

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サンダカン八番娼館(山崎朋子)

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「できるだけ多くの人に読んで欲しいと思う本」が稀にあります。明治・大正期の貧しかった日本から海外に身売りされ、南方の娼館で働かされていた少女たち「からゆきさん」の実像を聞き取って綴った本書は、そんな一冊。

本書を読んでいなくても、映画「サンダカン八番娼館-望郷」を見た方は多いのではないでしょうか。聞き取り調査をおこなう著者を栗原小巻が、元「からゆきさん」のおサキさんの若い頃を高橋洋子が、老いて後を田中絹代が熱演していました。たまたまこの映画をシンガポールで上映していたことがあり、リトル・インディアの寂れた映画館で見たのですが、ボロボロ泣いてしまいました。こういう時に映画館の暗さは助かります。

現地の友人にこの映画のことを「double tragedy」だと説明したことがあります。貧しさゆえに海外に身を売らねばならなかった悲劇と、豊かになっていた日本に帰国して後は、故郷の肉親からも「恥」と思われ疎遠にされたという二重の悲劇。現代の「ジャパゆきさん(中華系の彼女はそんな言葉は知りませんでしたが)」と何が違うのかと問われて、何も言い返せなかったことまで克明に覚えています。(まさか「それらの国は現在まだ貧しいだけじゃない」なんて言えませんし・・)

それはさておき、そんな悲劇の主人公であったおサキさんと、身分を隠して調査をしていた著者が、3週間の同居生活の後に心を通じさせる場面がジンとくるのです。おサキさんの悲しい過去や、現在の貧しい境遇に涙したわけではなく、年齢も境遇も異なる2人が心を通じ合わせることが、ものすごく素晴らしいことに思えるのです。その場面でまたもやられてしまいました。まずい・・これを書いているだけで涙腺が・・会社の昼休みなのに・・。

「からゆきさん」の出身地が天草と島原に集中している理由を考察したエピローグは説得力がありますし、著者が「からゆきさん」たちの墓が日本に背を向けていることに気づく場面(映画のラストシーンですね)を含む現地調査記録『サンダカンの墓』も併録されています。映画を見た方にも、見ていない方にも読んで欲しい本です。2008年1月に復刊されました。

2009/7