りぼんの読書ノート

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失われし書庫(ジョン・ダニング)

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デンヴァーの警官から古書店主へと転身したクリフ・ジェーンウェイを主人公とする「古書ミステリ」の第3弾です。

第1作死の蔵書では、アメリカ古書界と「古本ハンター」と呼ばれる人々の実情を描き、第2作幻の特装本では一転して、稀覯本となることが運命付けられた特装本の製作者の世界を舞台にした著者が次に取り上げたのは、「書き手」にまつわる物語。

ナイル源流のヴィクトリア湖「発見」などで名高い18世紀イギリスの探検家、リチャード・バートン卿(映画「愛と野望のナイル」の主人公ですね)の稀覯本を落札したクリフですが、腑に落ちなかったのはバートンの直筆による「チャールズ・ウォレンに」との献辞。いったい、チャールズ・ウォレンとは何者で、バートンとはどんな関係だったのか。

南北戦争直前にアメリカに訪れたバートンの数週間の足跡は不明とのこと。著者は、「バートンの空白の日々」を埋めてみようという知的冒険に挑戦したんですね。後に南北戦争の激戦地となった地域を巡るバートンの「架空の冒険」と、そこで知り合ったチャールズという男との固い友情の秘密が明らかになっていきます。

タイトルの「盗まれた書庫」とは、バートンと生涯に渡る友情を築いたチャールズが蒐集した、バートンの著作コレクションのこと。「相続の権利を有していたのに、悪徳古書店によって騙し取られた。クリフが入手した本はその中の一冊であって、本当なら自分のもの」と名乗る老婆が登場して、クリフは蔵書のゆくえを探し始めます。蔵書が奪われたこと自体が80年も前のことですから、雲を掴むような話だったのですが、本を巡って殺人事件が起きてしまったため、「蔵書探し」は「犯人探し」とシンクロしていき緊急性を帯びることになるのでした。

いわゆる「歴史ミステリ」となっていますが、こういった小説では「謎解きの過程」よりも「謎そのもの」が重視される傾向があるように思えます。本書の「謎」は申し分のないものであり、私は楽しめましたが、ひょっとしたらミステリ・ファンには「謎解き」部分はご都合主義的に思えるのかもしれません。もちろん、古書に関する薀蓄部分は前2作と同様、楽しめます。

2009/6