りぼんの読書ノート

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ジーザス・サン(デニス・ジョンソン)

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「1992年に出版されて以来、多くの読者に衝撃を与え、20世紀末のアメリカ短篇集の最高峰として、誰もが名を挙げる一冊であり続けている」との出版社コメントがつけられています。衝撃的な本であることは間違いありません。

若くしてドラッグにはまり、正常な判断力を失って凶暴化し、犯罪と危険に身を投じた挙句、「生きているだけでありがたい」という状態の廃人寸前の青年たちを描いた連作短編集。主人公はいくつかの作品で「ファック・ヘッド」と呼ばれてますから、同一人物なのでしょう。

とにかく強烈なのです。薬(ヤク)を手に入れるために凶悪な犯罪を犯して簡単に死んでいく青年たちのエピソードが、幻覚のような言葉で吐き出され続けるのです。翻訳者の柴田元幸さんは、「書き間違いではないかと思えるような場違いのフレーズ」と表現していますが、「でも君は俺の母親だったのだ」なんて一文は今もって意味が理解できません。

でも、救いもあるのです。ラストの「ベヴァリー・ホーム」で、障碍者と老人たちの暮らすホームで働くようになった主人公は、こう語るのです。「変てこな連中が大勢いて、俺は毎日奴らに囲まれながら少しずつ良くなっている」と。「それまで俺は、俺達みたいな人間の居場所があるかもしれないなんて、一瞬たりとも想像したことすらなかったのだ」と。

著者自身が、麻薬中毒者であった過去を持つそうです。かろうじて破滅の淵で踏みとどまって社会復帰を果たすことができた「ファック・ヘッド」自身が自らの体験を綴った本ではないか、とすら思えてきます。著者の最新長編『煙の樹』は、全米図書賞を受賞したとのこと。刊行が待たれます。

2009/6