りぼんの読書ノート

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門(夏目漱石)

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三四郎それからに続く、明治期の知識人の苦悩を描いた三部作の終編にあたります。主人公の名前や設定は変えられていますけどね。

前作の『それから』は、主人公が親友の妻に恋心を告白し「高等遊民」としての安穏とした生活を破綻させドストエフスキー的な狂気を漂わせるところで終わっていますが、本書では、横町の奥の崖下にある暗い家でひっそりと生きている夫婦の姿が描かれます。このあたりは、やはり日本的。

しかし過去の罪(「姦通罪」がまだあった時代です)は、2人をどこまでも追ってきます。突如として現れたかつての親友の消息に主人公・宗助の心は悩み苦しみ、妻・御米には内緒で心の安寧を得るために仏門を叩いて参禅するに至るのですが、根本的な問題からは逃避したままですから、解答も救済も得られるはずもありません。

では宗助はいったいどうするのか。結局は、静寂な生活に戻ってしまうんですね。崖下の暗い家に戻って、勤め先の役所で5円の昇給に喜び、学業の目処がついた弟・小六の処遇に安堵し、希望も絶望もない、妻と2人の暮らしに閉じこもっていきます。

しかし、これは救済の物語ではありません。「彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった」との漱石の文章が全てを要約しています。インテリの悩みだなぁ。

もちろん三部作の各編は異なった人物を描いているのですが、三四郎のように生気に溢れた学生が、代助や宗助のような隘路に陥ってしまう可能性があることは、今も昔も一緒です。決して時代のせいだけではないと思うのですが・・。

2009/6