りぼんの読書ノート

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死の蔵書(ジョン・ダニング)

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古書稀覯本専門の書店を開いていたこともある著者による、古書好きの刑事を主人公とした警察小説です。もっとも主人公のクリフは物語の途中で警官をやめてしまうのですが・・。

古本の山から数百ドルの値打ちの本を探し出すことを生業とする「古本掘出し屋」が殺害され、捜査に当たったクリフは、貧しかったはずの被害者の蔵書に莫大な価値があることを発見。被害者と交際のあった古書店主や古書愛好家たちの聞き込みから判明してきたのは、被害者が故人の蔵書の運搬を頼まれていたという事実。しかし、その蔵書にはクズ本しかなかったはずなのです。

主人公の刑事が古書愛好家でありながら、全体のトーンがハードボイルド的であるのには少々違和感を抱きますが、アメリカ古書事情にかかる薀蓄部分や、それぞれ一家言を持った古書店主たちのキャラクターは楽しめます。

やはり人気のある作家の本に高い価値がつくのですね。スティーブン・キングの初版本が、スタインベックやフォークナーより高い値段がつくというのは驚きです。古書の値段は内容や古さよりも愛好家の数で決まるといってしまえば、それまでのことなのですが、そういう風潮を苦々しく思う昔かたぎの古書店主の存在も、いかにもありそう。一方で『羊たちの沈黙』などは出版当時から将来の値上がりを約束されていたようです。

私自身は、価値ある初版本どころか本そのものを所有する願望はないので、稀覯本に対する愛着はないのですが、ヘミングウエイとウルフが互いの小説に感想を書きあった本や、ホーソーンがお茶目ないたずら書きを記した自書などは、見てみたいもの。

ラスト1行での、被害者の蔵書がクズ本ばかりと鑑定された謎の解決はスマート。同じ主人公が登場する続編もあるとのこと。続けて読んでみようと思います。

2009/5