りぼんの読書ノート

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小説フランス革命3 聖者の戦い(佐藤賢一)

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シリーズ第3巻は、1789年の暮から翌年の革命一周年までを描きます。王家と内通したミラボーは相変らず睨みをきかせていますが、青臭い正論を吐き続けるロベスピエールが左派を代表する理論家として力を持ち始める一方で、オータン大司教タレイランが表舞台に登場。教会改革を画策しはじめます。

そもそも革命の発端であった王国財政の危機は、なんら改善されていなかったのであり、教会や修道院が占有していた広大な荘園の帰属は避けて通れない問題でした。教会財産を国有化して、それを担保に国債を発行するというアクロバティックな提案は聖職者の地位を巡る議論へと発展していくのですが、タレイランミラボーとの絶妙なコンビネーションは、ついに教会を国家に従属させることに成功。

この時期、ヴェルサイユからパリに移った憲法制定国民議会でもうひとつ議論されたのが、戦争権が誰に帰属するのかという根本的な問題。宣戦と講和の機能は、立法権である国民議会と、執行権である国王政府のどちらが担うのかという議論は、現代でも解決されていないテーマですね。この時の議論は、フランス国民も国王政府も他国への侵略戦争など仕掛ける意思はなく、純粋に自衛戦争のことという前提のもとに行なわれたのですが、後のナポレオンの登場を知っている者としては苦笑せざるを得ません。

急速に保守化しはじめた「民主的ブルジョワ議員」が多数派を占める中で、革命1周年が祝われますが、地方に住む無名の法律家からロベスピエールを賛美する手紙が届くところで第3巻は終わります。手紙の差出人の名前はサン・ジュスト! 嵐の予感!

2009/5