りぼんの読書ノート

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それから(夏目漱石)

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有名な作品ですのでなんとなく読んだ気になっていましたが、初読でした。『三四郎』、『それから』、『門』と三部作をなしている要の作品です。といっても、三四郎の登場人物が出てくるわけではありません。

主人公は「高等遊民」の代助。学歴もあり近代的な思想に親しんでいながら、30歳を迎えても定職にもつかずに裕福な親からの援助で贅沢な生活をおくっている、なんとまあ羨ましい身分の男。

彼はなぜ働かないのか、勝手な理屈をもてあそびます。日露戦争に勝利した日本を「むりにも一等国の仲間入りをしようとするが、借金をこしらえて貧乏震いしている国」と批判し、そんな国のために働くことは罪悪だと。そんな日本は、形ばかり西洋化して生活力を持たない代助とかぶるんですけどね。

そんな代助が3年前に、愛する三千代を自ら斡旋して友人の平岡に譲ったものの、それは「自然」にもとる行為であり、ついに三千代との愛を貫こうとする物語。はっきり言って終盤にさしかかるまでは、仕様もない男の屁理屈や身勝手な恋愛感に辟易としていたのですが、やはり漱石は凄い。勘当を覚悟で不倫を貫き通す覚悟を決めてからの代助の心理描写の凄まじいこと。

愛する人と生きる」という目的をもってはじめて、彼は自らが何の生活手段も持たず明日からの生活もままならないことに気づいて愕然として、街へと飛び出します。「途方に暮れる」なんてものではなく、これはもう「ドストエフスキー」レベルの狂気。

「それから」の日本の歴史を知っている視点から見ると、インテリ階層をも巻き込んで狂気の戦争に突き進んで行った「昭和日本」すら思い起こさせるほどなのですが、漱石は別の展開を『門』で用意していました。今更ですが、そっちも読んでみましょう。

2009/5