りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)

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ヨーロッパやアフリカなど旧世界のあちこちにいた神々は、アメリカには来なかったのか? 実は「神々にとっての不毛の地」アメリカにも、旧世界の神々は移民たちとともに渡ってきていたのに「アメリカ生まれの新しい神々」によって片隅に追いやられているというのです。

自動車やハイウェイの神、クレジットカードの神、インターネットの神、メディアの神などの「新しい神々」は、太って嫌味な白人青年や、ピンナップガールのような艶かしい女性の姿で登場する一方で、人々から忘れられつつある「古い神々」は、情けない生活をおくっています。北欧の最高神オーディンは詐欺師に、エジプト神アヌビズは葬儀屋に、ランプの精ジーニーはタクシー運転手に、シバの女王ビスケスは売春婦として細々と生き延びているんですね。

さて、本書の主人公は「一般人」のシャドウ(彼の出自は最後に明らかにされますが)。三年の服役を終え出所を間近に控えたシャドウは、愛する妻ロミーが自分の親友と浮気の末に自動車事故で亡くなったと知らされます。ただ茫然と立ちすくむシャドウの前に現れたのは、詐欺師ウェンズデイに身をやつしたオーディン。不思議な契約を結ばされたシャドウは、古き神々を結束させて、新しい神々に対する最終決戦を挑もうというオーディンの企てに協力させられてしまうのですが・・。

この本のスケールの大きさは、古き神々を通じて「全てのアメリカ人は移民である」というモチーフを打ち出したのみならず(ネイティブ・アメリカンも古代にアジアからやってきた移民なのです)、新しい神々でさえもが次々と使い捨てにされてしまう、現代アメリカの姿を描き出したことにあります。真の問題は「古い神々」と「新しい神々」の対立ではなかったのですね。

合間に挿入されるエピソードも魅力的です。イギリスの妖精をアメリカに連れてきた少女の話や、アフリカの神を連れてきてブードゥへと変質させた双子の奴隷の話や、亡びたインディアンの部族が信仰していた忘れられた神の話など、それだけで短編として成立しているくらい。前作アナンシの血脈で主役だった、アフリカの物語の神アナンシに愉快な物語を語らせているのは、読者サービス?

2009/5