りぼんの読書ノート

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山田風太郎明治小説全集 5~6.地の果ての獄

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明治10年の西南戦争直前の『警視庁草紙』、明治17年の加波山事件直前の『幻燈辻馬車』に続く、明治小説の第三弾です。

時代は明治19年。2年前の加波山事件や秩父事件で弾圧された自由党は解党に追い込まれ、事件の首謀者たちは政治犯として獄舎につながれています。本書の舞台が東京から離れて、北海道の樺戸と空知にある両集治監となっているのも時代の流れを反映しているのでしょう。

本書の主人公は、後年クリスチャンとして人道主義に徹し、囚人からも慕われる「愛の典獄」と呼ばれるようになった有馬四郎助。有馬家に養子に入る前の四郎介の旧姓が「益満」というと、幕末に西郷の密命を帯びて江戸で悪党狼藉を働いた「益満休之助」を思い浮かべますが、上野戦争で死んだと伝えられる休之助も意外な姿で登場してきます。

樺戸集治監の看守に着任した四郎介の人生と交錯する中に、余市の通信技師である幸田露伴や、山本五十六の兄である高野看守長も登場しますが、なんといっても本編の助演男優を務めるのはクリスチャンとして囚人の待遇改善を説いてまわる原胤昭です。彼が囚人たちに配る聖書が、北海道開拓庁長官の弟で、タカビーな石川県令・岩村高俊をギャフンと言わせる「大奇跡」を起こすのですから。^^

それにしても、「監獄とは囚人を苦しめる所」であるとの思想は、いかにも明治政府的です。「監獄への恐怖心が再犯を防止する」という考えのもとに、人権無視の体罰や強制労働が平然と行なわれていたのですから。

自由党員や不平士族をはじめとする明治期の犯罪者群像を描くエピソードもさることながら、本書で印象に残ったのは、囚人を強制労働に用いて、炭鉱を掘り、道路を建設させたことが明治期の富国強兵策の一部をなしていたという事実です。後に改善されたとはいえ、九州には三池炭鉱のために三池集治監が作られ、やがては占領下の朝鮮人が炭鉱労働者として挑発されていく歴史につながっていくのですね。

下巻には、「斬奸状は馬車に乗って」「東京南町奉行」「首の座」「切腹禁止令」「おれは不知火」の
中篇5作も収録されています。長編の合間を縫うようなエピソードも楽しめます。

2009/5(本当は北海道旅行中に読むつもりでした)