りぼんの読書ノート

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シェヘラザードの憂愁(ナギーブ・マフフーズ)

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アラブ人作家として初めてノーベル文学賞を受賞した著者が、晩年に紡ぎ出した小説は、『アラビアン・ナイト』が終わった翌日から始まりました。花嫁を次々に殺害してきた残忍なスルタン・シェハルヤール陛下に「物語」を捧げ続けて、ついに彼の愛と信頼と子どもを得たシェハラザード妃が「彼には心を捧げられない」と父親の宰相ダンダーンに悩みを打ち明けるのです。

ところがそんな2人をよそに、「物語」の世界が「現実」に入り込んできてしまいます。妖霊(イフリート)たちが登場して、ある者は悪意で、ある者は悪戯心で、人間の世界に干渉してくるんですね。警察長官の殺害を命じられた豪商や、身分違いの恋に落ちるよう仕掛けられた美男美女カップルや(この美女はシェハラザードの妹ドゥンヤザード)、魔法のアイテムを授かって身の破滅を招く誘惑に落ちる実直な青年やらが、自らの命で物語を織り成していきます。

シンドバードは「物語」と同様に冒険の船出をし、アラディンは信仰に救いを求める。信仰は果たして身を守ってくれるのか。横暴な権力者たちに罰を授けてくれるのか。そして、スルタンは本当に心を入れ替えて、シャハラザードの真実の愛を得ることができるのか・・。この2人には、ちょっと皮肉な結末が待っているのですが・・。

なかなか楽しい物語でした。ただし、神秘主義者の聖人の説くところの無意味さや、イフリートに翻弄される人間世界の正邪の意味を問い正しているようでもあります。敬虔なイスラム教徒であるなら、もっと深い内容まで読み取れるのかもしれません。でも、アラビアの人名は覚えにくくて困ります。アブドッラー・アルバルヒーとか、サアナーン・アルジャマリーとか、ジャマサ・アルブルティーとかの名前では、誰が誰なのかわからなくなってしまいます。「登場人物リスト」が欲しかったな。

2009/3