りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

時間封鎖(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

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「ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった」。突然地球が膜で覆われて宇宙から遮断されてしまいます。後に明らかになるのは、地球だけが外の世界よりも1億倍も遅い時間の流れの中に封鎖されてしまうという不思議な状況ですが、その結果、太陽系の進化と滅亡を、人間の一生という短い期間で迎えてしまうことになります。

もちろん、とてつもない人類の危機です。何十億年も先と思われていた太陽系の滅亡が、数十年後に迫ってくるのですから。人類は、地球の1年が火星では1億年に相当するということを逆手にとって、火星をテラフォーミングして地球を救う文明を育てるという壮大な計画を立てるのですが・・。

物語は、子どもの頃に星が消えた瞬間を同時に目撃した3人の男女を軸に進行して行きます。裕福な家に生まれて優秀なリーダーの素質を持ち、科学的な対策を講じていくジェイスン。彼の双子の姉ながら高圧的な父親に反発して、宗教に救いを求めるようになるダイアン。2人の幼馴染で、ダイアンに惹かれながらも医師となってジェイスンを支えるタイラー。

語り手はタイラー。「科学」と「宗教」の間の微妙なバランスを保つには、科学的な思考を持ちながら個人レベルとも関わる「医師」という職業がぴったりです。

この本は、火星のテラフォーミング、ナノ生命体、一種のファースト・コンタクトといった「マクロの部分」がしっかりしていますので、SFファンにお勧めであるのはもちろんですが、決して読者を選ぶ「ハードSF」ではありません。3人の揺れ動く気持ちや、個人レベルでも変転する運命との「ミクロの部分」も秀逸なので、一般小説としても成立している傑作です。過去のSF名作へのオマージュも込められているのですが、わからなくても問題ありません。何より、終末が迫り来るとの危機感・緊張感を最後まで保ち続ける筆力が素晴らしいですね。

本書は3部作の第1部だそうです。スピン膜を作った存在とされる「仮定体」は、人類をどこに導くのか。何らかの目的を持った行為なのか。クラークの「2001年宇宙の旅」のような謎めいたエンディングを読んでしまうと、続編を待ちきれません。未刊のシリーズをリアルタイムで読むのは、「待ちの時間」がもどかしい!

2009/3