りぼんの読書ノート

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面影小町伝(米村圭伍)

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風流冷飯伝『退屈姫君伝シリーズ』に続く3部作の完結編であり、物語の設定も登場人物も、前2作と共通しているのですが、テイストは全く異なっています。前2作が「お気楽時代劇」だったのに対し、こちらは「伝奇バイオレンス」なのです。

主人公は、少女くのいちのお仙。退屈姫君伝では谷中の茶屋でお庭番の手先を勤める真っ黒な14歳の小娘でしたが、3年が経った今作では色も白くなって、江戸で評判の小町娘として、錦絵が飛ぶように売れるほどの美女となっています。人気浮世絵師・鈴木春信が実際に描いて今に伝わる「笠森お仙」とは、まさに彼女のことだったのです。これこそアッと驚く大きな仕掛け。

やはり鈴木春信が描いた「柳屋お藤」が自分とそっくりなことに気づいたお仙は、熊野忍びの両親が生み落としたという自分の出自を疑い、紀州まで旅をするのですが、本当の両親を巡る因縁と、紀州に伝わった妖刀の伝説でした。彼女の両親とは誰で、お藤との関係はどうなっているのか。

例によって天下のボンボン田沼意知が悪役として登場しますが、前作までとは違ってひ弱な臆病息子ではありません。神君・家康すら抜かなかったという妖刀を抜いてしまい、その邪気を帯びてしまった結果、真の悪役となってお仙とお藤をつけねらいます。彼の末路は、知っての通り悲惨なものなのですが・・。

「伝奇バイオレンス」仕立てになっていることはともかく、この作品を重く感じるのは肝心のお仙が暗いからなんです。「笠森お仙」が旗本・倉地政之助に嫁いだとの「史実」をどうやってフィクションにしてしまうかという作者の意欲は大いに買いますが(だって、前作までの倉地は全く冴えないダメ男なんですから^^;)、ここまでしなくても良かったのでは?

「お気楽時代劇」に仕上げて欲しかったと思うのは、私だけではないのでは? なお、本の表紙の横につけたのは、浮世絵【鈴木春信作「笠森お仙」】です。

2009/3