りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

銀座開化おもかげ草紙(松井今朝子)

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幕末あどれさん』に続くシリーズ2冊めだそうです。前作があることを知らずに読み始めてしまったのですが、ここからでも話は追えます。

主人公の旧旗本の久保田宗八郎は、前作で江戸幕府の瓦解期に青春時代をすごした後に開拓移民として北海道へ渡ったとのことですが、この作品では既に激変した東京に戻ってきています。

まだ30歳。「世を捨てるにはまだ早い」年ですが、新政府の高官に仇を持つ身であれば世間の表舞台に出るわけにもいかず、「髪結いの亭主」として鬱屈した日々をおくるのみ。それでも、廃藩置県、徴兵制、言論弾圧、不平士族の乱と、変わり続けていく時代の波は、彼のことを放っておいてはくれません。

文明開化の裏で、新政府の強引な政策に苦しんでいる隣人たちの手助けをしているうちに、非道なやり口の背後にいるのが仇敵の高官であることを知り、わずかに残った武士の意地を見せようとするところで本書は終了するのですが、この時点で明治9年。次巻の物語は、西南の役という新政府にとっての一大事件と連動していくはずですね。楽しみですが、前作も読んでおこうかな。

ひとつひとつの物語は、連作短編となっています。
明治の耶蘇祭典(クリスマス):銀座にガスを引こうとする会社の邪魔をする男たちの正体は?

井戸の幸福:土佐の民権家が怪死した背景には、麻雀賭博で暴利をむさぼる謎の人物が。

姫も縫ひます:車引きの妻となった元旗本の娘は、希望を失って・・。

雨中の物語:元士族の老人をはねた馬車の持ち主は?

父娘草:元士族の娘を愛人として殺害した権力者に、宗八郎の怒りが燃え上がります。

連作短編が、全体としてみると大きな流れになっているという構想もいいですし、主人公の周辺に実在の人物を配しているのも楽しめます。宗八郎を雇うのが、占いの好きなガス会社創設者の高島勘十郎(後に「高島暦」を生みます)。宗八郎の家主が、旧大垣藩の若様の戸田三郎四郎(後に欽堂と号して戯作調の政治小説家)。宗八郎の隣人が、キリスト教に帰依した元与力の原胤昭(後に十字屋創業、原女学院創設)。

さすがに愛人の比呂や、宗八郎を慕う御殿医の娘・綾や、薩摩出身の市来巡査などは創作だと思いますけど、でも、ひょっとしたら・・。

2008/12