りぼんの読書ノート

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エヴァ・ライカーの記憶(ドナルド・A・スタンウッド)

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30年近く前の1979年に刊行された本が、復刊されました。恩田陸さんの「タイタニックものでは一番面白い」との評価が効果あったのでしょうか。

本書の背景となっている時代は1962年。史上最大の海難事故といわれる1912年の「タイタニック」の沈没から半世紀後。小説家ノーマンは、タイタニックの遺留品捜索を開始した大富豪のライカー氏から、捜索とタイアップした連載記事の執筆を依頼されます。

実はノーマンは作家になる前にハワイで巡査をしており、1941年の真珠湾攻撃の直前に起きた残忍な夫婦殺害事件を目撃して、あまりのむごたらしさに眼をそむけて現場を逃げ出したという苦い経歴がありました。その夫婦もまた「タイタニックの生き残り」と言っていたのです。

イカーの真意を探ろうと取材しているうちに、彼とタイタニックとの意外な因縁が明らかになってきます。妻であったクレアはタイタニック沈没の犠牲者となっており、当時10歳だった娘エヴァは、救助されたものの精神的なダメージからか、その後も奇行を重ね続け、人生を棒に振ったも同然の暮らしをしているというのですから。

インタビュー相手が殺害されたのを皮切りに、取材はトラブルに見舞われ続けます。50年前の「悲劇」と20年前の「惨事」の再検証を望まない人物は誰なのか。全ての謎を解き明かす鍵は、エヴァの失われた記憶の中にあったのですが・・。

スタイルは「古風な探偵もの」ですが、タイタニックエヴァの記憶のサルベージがシンクロして明かされていく「失われた5日間の悲劇」はパズルを解いていくかのよう。最後のパズルの断片が嵌め込まれたときに姿を現す、二重三重の犯罪は意外性たっぷり。

ただ、1960年代という、タイタニック沈没から50年しかたっていない時代感覚に馴染むには、かなりの努力を必要としました。本書が出版された当時のおもしろさには、「半世紀前の事件が(当時の)現代に蘇る」ところに負う部分も大きかったのでは? はからずも「文学の永遠性」の難しさまで読み取ってしまったようです。

2008/12