りぼんの読書ノート

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シャーロック・ホームズの息子(ブライアン・フリーマントル)

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スパイ小説の大家が著した「ホームズ・パスティーシュ」。しかし、物語のジャンルは探偵ものではありません。この本が見事に仕上がったのは、著者の得意分野であるスパイ小説としたからですね。

まず著者が主人公として創作したのが、本編では存在しない「ホームズの息子」。ホームズがモリアーティ教授と対決して滝に落ちて姿をくらました際に、看護をしてくれた女性とのあいだに生まれたとの設定。母は出産で命を落としたために、父親としての責任をまっとうできないと判断したホームズが、兄のマイクロフトに預かってもらっていたということになっています。息子の名はセバスチャン。

成人してホームズと親子の名乗りをあげたばかりのセバスチャンは、父の跡を継ぐことを決意するのですが、彼に与えられた任務は海軍大臣チャーチルからのものでした。時代は第一次大戦前夜。中立国アメリカからの支援を期待するチャーチルは、米国世論をイギリス寄りにするために、ドイツに味方する米国秘密結社の存在を明らかにする任務を依頼してきます。

支援も身分保障もなく、露見したら生命の保証もないという厳しい条件にもかかわらず、セバスチャンはアメリカの軍事産業界の大立者たちと接触し、さらにはドイツ大使館でのレセプションに潜入することに成功するのですが、冷酷なチャーチルの真意は、彼を囮として使い捨てることでした・・。

老いたりとはいえ、ホームズもワトソンも健在です。ホームズは息子を窮地に立たせたことを悔やみながらも、イギリスにいて名推理を働かせ、暗号電文で息子を支援するあたりは面目躍如。

父と子の葛藤や、某国プリンセスとのロマンスなどの横糸が、ラストのドンデン返しに繋がっていく展開も見事です。セバスチャンがロシアに潜入する続編もあるとのこと。本書の記憶が新しいうちに読んでみようと想います。

2008/12