りぼんの読書ノート

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エネルギー(黒木亮)

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景気後退の到来とともに原油価格は急速に下降局面に入っていますが、本書は原油が上昇し続けた2002年から2006年を中心にした物語。「エネルギー」を追い求め、翻弄される者たちを描いた群像小説です。

主な舞台は3つ。サハリンの巨大ガス田開発で、オイルメジャー、ロシア政府、環境団体と粘り強く交渉する商社マン。イランの「日の丸油田」開発に命をかけながら、国際情勢と日本政府の対応に翻弄される男たち。シンガポールの石油デリバティブ取引で顧客を骨の髄まで搾り取ろうとするファンド・マネージャー。

それぞれが「実話」に基づいた物語です。サハリンBではシェルと日本商社が保有していた「サハリンエナジー社」の株式の過半数を、コストをはるかに下回る価格でロシアのガスブロム社に譲渡を余儀なくされた、恐喝とも思えるロシア政府とのやりとりのいきさつが詳細に示されています。NGOによる環境問題の提起が、ロシア政府に利用されてしまうあたりは皮肉ですね。ロシア主導となることで、環境への配慮はそれまでより劣悪になるのでしょうから・・。

シンガポールで破綻したのは、中国国営の航空燃料供給会社の子会社です。560億円もの損失を出しただけでなく、損失を明るみに出す直前の株の売り抜けなどのインサイダー違反もあって、現地法人社長などが、巨額の罰金と禁固刑を課せられたはず。こんな会社が上場していたこともショックですが、中国企業の不良資産問題は深刻と聞いています。だいたい、素人がデリバティブなんかに手を出してはいけませんよね。

先日までの原油価格上昇は、中国などの原油獲得ラッシュに加え、年金資産までが原油先物市場に入り込んでいたことが大きな要因のようです。年金資産というのは長期安定運用が基本ですから、ヘッジ・ファンドに較べて小回りが効かないはず。そんなものを商品相場に張るなんて・・。暴落局面でも大きな損失を出してしまっただろうな。

エネルギービジネスの怖いところは、とにかく金額が巨額なこと。開発、採掘、購買、運用などに凄腕のプレーヤーたちが集まってくるというのも頷けます。そんな中、産油国アメリカの間で、日本政府の対応が揺れているのは情けないものですが・・。

2008/11