『喪失の響き』が良かったので、以前に出版されていた彼女の処女作も手にとって見ました。こちらは、新潮クレストブックス。舞台となるシャーコートという町がインドのどのあたりにあるのかは、全然わからないのですが、文中に「ヒマラヤの峰も見える」との表現もありますので、やはり西ベンガル北部なのでしょう。
ひどい干ばつの夏に、いかにも小市民的な父親とちょっと変わった母親クルフィの間に生まれたサンパトは、夢想家で無気力な問題児に育ちます。父親がやっと見つけた郵便局の仕事も満足にこなせず、上司の娘の結婚式でウェディング用のサリーを見て舞い上がり、女装して来客の前に現れてクビになってしまう始末。
そんなサンパトが、家を抜け出して町外れの果樹園にあるグアヴァの樹の上で暮らし始めたから大騒ぎが起こります。はじめは「おかしくなった」と思われたサンパトですが、郵便局員の時に他人の手紙を盗み読みして知ってしまった秘密を樹上からばらしはじめたことから、「不思議な能力を持った聖人」であると誤解され、彼の「ありがたい」言葉をいただきにくる人まで現れるようになっちゃいます。
父親は、「牛乳に酢を加えるとすっぱくなる」などの不思議な警句を吐きまくるサンパトを「聖人」として商売の種にしはじめ、皆が満足できる結末を向かえそうにも思えるのですが、いたずら好きなサル軍団が樹上のサンパトのまわりに群がるようになって様相は一変。
軍やら警察やらスパイやら衛生局やら大学教授やらも巻き込んだ「大騒ぎ」は、思いもよらない展開になり、「えっ!こんなめちゃくちゃな終わり方ってあり?」と唖然とするエンディングに向かって流れ出します。
「菩提樹の樹下」ではなく「グアヴァの樹上」なのをはじめとして、本書でも「間違い探し」のような世界が描かれています。本書から漂ってくるのは「グローバルな香り」というよりも、母親クルフィがつくる不思議なマサラの匂いなのですが・・。
2008/5