りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

I’m sorry,mama.(桐野夏生)

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ここまで無残で異様な世界を描くのか・・という感じですが、ここまできたら行き着く所まで行くしかないのでしょう。

かつて存在していた娼館で育てられていた、年齢もわからず、誰が母親とも知れない少女。後に明かされる出生の秘密も、生い立ちもあまりにも悲惨であり、女性として人間としてマイナスの要素を山ほど抱え込みながら育った少女は「モンスター」となるしかなく、中年女性となってもなお平然と殺人や盗みを犯し続けます。

やりきれないのは、犯罪者である主人公だけでなく、被害者など大半の登場人物たちが決して普通の幸福を得ているわけではなく、社会の底辺で棲息している者であること。そこには、目をそむけたくなるような「現実」があります。

25歳年下の夫から疎んじられるようになった、もと児童福祉施設の保育士の初老の女性。不倫夫の浮気相手のこどもを引き取って育てている、ホテルチェーンの女社長。新興宗教にのめりこんだ元娼婦のアル中老女に、ホームレスたち・・。

『グロテスク』などの一連の小説が、「想像を超える現実」を「さらに超えていく想像」へのチャレンジだったことを思うと、「完全なフィクション」の暗さには、逆に物足りなさを感じてしまいます。「暗けりゃいいってもんじゃない!」と言いたくなっちゃう。そのあたりは次のメタボラで軽々と超えてくれたのですが・・。

2008/5