りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウィキッド(グレゴリー・マグワイア)

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オズの魔法使い』には、4人の魔法使いが登場します。「東の悪い魔女」はドロシーの家につぶされ、「西の悪い魔女」はドロシーに水をかけられ溶けてしまい、「エメラルドの都を治める大魔法使い」は単なるペテン師にすぎず、最後に「南の良い魔女」がドロシーをカンザスに帰してくれるんですね。でも、これはみんなドロシーから見たお話。実は、魔法使いたちにはこんなドラマがあったのです。

「大魔法使い」によって支配されたオズの国は、権力者たちの力の濫用やスパイによって民衆は苦しみ、一方で快楽信仰の虜になっていました。また、言葉を話す〈動物〉たちは虐待されて単なる動物へと戻らされようとしていました。

そんな中で大学に学ぶ3人の女性が、やはり魔法を使う学長に呼び出され、権力者に仕えるスパイとして働く三大魔女となるよう説得されます。緑色の肌を持って生まれて両親からも愛されることのなかったエルファバと、彼女の妹で身体が不自由なネッサローズと、軽薄な美女グリンダ。

エルファバはその誘いに怖気をふるい、虐げられている民衆や動物たちのために戦う決心をして大学を去るのですが、革命闘争のさなか、愛する人を失って、彼の祖国である辺境の西の国に引きこもります。一方、そんな勧誘があったことを忘れたかのようなグリンダは、少々の魔力を身につけて裕福な結婚をしています。ネッサローズは故郷である東の国に帰り、宗教の力を借りてオズからの独立をはかるようになります。

ドロシーが竜巻に飛ばされてカンザスからやってきたのは、そんな時でした。あとは知ってのとおり。人生を悩み苦しんだエルファバは、ドロシーの無邪気な純真に圧倒されてしまうのです。

普通の女性として生きたかったエルファバが、どうして不幸の連続の末に「悪い魔女」と呼ばれるようになってしまったのか・・ある意味、救いのない話です。強いて言えば、オズの国に専制政治を敷いていた「大魔法使い」が気球で逃げ出したのは、エルファバらの活動の成果として、革命が起こる寸前だったということでしょうか。

でもミュージカル「ウィキッド」のエルファバは、もっと魅力のある優しいヒロインにされていると聞きます。脚本家も彼女に救いを与えたかったのかもしれません。

2008/3