りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/1 神なるオオカミ(姜戎)

1位の『神なるオオカミ』は、青年時代に内モンゴル自治区下放されていた著者が、たった1冊だけを30年以上かけて書き上げた「奇跡の本」です。古来より、オオカミをトーテムとする遊牧民族の血が、漢民族に輸血されることによって中国という国家が成り立ってきたという歴史観に立ち、滅び行くオオカミと草原に捧げた賛歌であり、哀悼歌でもある本書からは、著者の人生と信念が伝わってきます。

2位から5位は、一応順位をつけてはみましたが、同列です。

1.神なるオオカミ (姜戎)
内モンゴル下放された主人公は厳しい草原に生きる遊牧民族とともに暮らす中で、家畜を襲う敵でもあり、草原の生態系の守り手でもあるオオカミに惹かれていきます。「人民の敵」として狩られていくオオカミも、定住化の進む草原も、滅んでいく中で、主人公は、「小狼(シャオラン)」と名づけた子オオカミを飼おうとするのですが・・。

2.ショコラ (ジョアン・ハリス)
不思議な女性ヴィアンヌがカラフルなチョコレート店を開いた村で、人々の心は解きほぐされていく一方で、それを快く思わない黒衣の神父レノーは頑ななまま。生命の喜びを象徴するかのようなカラフルさが、黒い世界を取り込む物語ですが、黒もまた必要な色なんですね。ほろ苦くも甘い、ショコラそのもののような物語。

3.英国紳士、エデンへ行く (マシュー・ニール)
「エデンはタスマニアにあった」と唱える19世紀英国の牧師が実証の旅に出ます。一行を迎えたガイドは、白人に犯されたアボリジニの母親が産み落とした混血児。白人を憎みながらも白人の言葉と文化を覚えざるを得なかったガイドが、一行に見せたものとは・・。人種差別が、ヒトラーに先立って民族優生学という科学的な衣を纏おうとした時代に対して、著者のブラックユーモア的な仕掛けが光ります。

4.ドゥームズデイ・ブック (コニー・ウィリス)
傑作SFの『犬は勘定に入れません』より前に書かれた、タイムトラベルSFです。史学生を14世紀に送り出した21世紀のオクスフォードに、中世に流行していた熱病が蔓延してしまいます。一方、中世に向かった女子大生キブリンも熱病に倒れ、さらには、まだ英国には到着していなかったはずのペスト流行の真っ只中に! 安全なはずのタイムトラベルにいったい何が起こってしまったのでしょう?

5.生物と無生物のあいだ (福岡伸一)
「生命とは自己複製である」と結論付けながらも、生物の内部で起きている劇的なまでの物質の移動や交換、さらには不可逆的な現象である成長まで、分子生物学の基礎を、初心者にもわかりやすく記述してくれました。叙情詩的ともいえる本書のベースにあるのは、生命の神秘に触れた感動です。



2008/2/1