りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

方舟を燃やす(角田光代)

本書を貫いているテーマは、現代の言葉で言うと「フェイクニュース」ということになるのでしょう。その伝達手段は噂からSNSへと姿を変えながら、対象とする分野は、オカルト、宗教、予言、非科学的言説、事実の否定など広い。

 

1967年に生まれて昭和のオカルトブームの中で育った飛馬は、コックリさん、口裂け女、UFO、ノストラダムスの大予言などを半ば信じながら育ちますが、少年時代に入院した母の病状についての噂を信じてしまったことに深いトラウマを抱いています。一方で戦後すぐのベビーブーム世代に生まれて文化的な生活を知らずに育った不三子は、マイクロビオテックにはまっったことで、脂っこい料理が好きな夫はもちろんのこと、娘や息子ともうまくいっていません。

 

そんな2人が出会ったのは2016年。区の職員となっていた飛馬が関わる子ども食堂に、還暦を迎えて夫と死別していた不三子が料理を作る側となって参加してきたのです。40年もの間、誰からも感謝されないまま作り続けて来た料理を喜んでもらえたと不三子が涙する場面は少々感動的ですが、やがて世界はコロナ禍に襲われます。新たに登場してきたコロナワクチンを巡るフェイクニュースに、彼らはどう反応するのでしょう。

 

いつの時代にも登場した予言者は誰も救わなかったことなどわかっているのに、なぜ人はフェイクニュースを信じて、よくわからないことにも「確信」を抱き、自分を救ってくれるという「方舟」に乗ろうとするのでしょう。何かを信じていないと、予測不能な世界を生きていけないということなのでしょうか。大きな事件など起こらずに淡々と進んいく物語ですが、大きな問いかけを含んでいる作品です。

 

2024/9