日本と韓国の12人の人気作家が「韓国・フェミニズム・日本」というお題のもとに寄稿した、アンソロジー短編集です。フェミニズム、日韓問題、在日問題など幅広いテーマが取り扱われています。
「離婚の妖精」チョ・ナムジュ
韓国の2つの家族の妻と娘による離婚作戦が痛快です。女性たちはモラハラ男に苦しめられているだけではありません。『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者の手並みは鮮やかです。
「桑原さんの赤色」松田青子
「女性募集」とだけ書かれた求職票が、」その会社の全てを語っています。長年そんな会社に勤めている桑原さんの赤いアイシャドウは復讐の色なのです。本書で初めて知った著者の本を、もっと読みたくなりました。
「追憶虫」デュナ
彼女が女性に恋心を抱いてしまったのは、記憶を人から人へ運ぶ虫に感染したせいなのでしょうか。それでも何の問題もないようですが。
「韓国人の女の子」西加奈子
在日の気持ちがわからない日本人女性と、女性の気持ちがわからない在日男性が作り出した中間の存在が「韓国人の女の子」でした。もちろん間違っている方法なのですが、では何が正しいのでしょう?
「京都、ファサード」ハン・ガン
韓国と日本に隔てられた女性同士の友情が、すれ違ったまま終わってしまったのは何故なのでしょう。互いの真意を理解できなかった痛みがせつない物語です。
「ゲンちゃんのこと」深緑野分
女性である痛みには鋭かったものの、在日問題には疎かった女の子が、差別の存在に気付いてしまいます。彼女は立ちすくんだままでは終わらないと思いたいのですが・・。
「あなたの能力を見せてください」イ・ラン
ここで問いかけられる「あなた」とは造物主のこと。人間に性別を与えたことで落第点を取った神は、もう一度初めからやり直すように命じられます。
「デウス・エクス・マキナ」パク・ミンギュ
『ピンポン』の著者はさすがに奇想天外です。突然「神」なる存在が地球に降臨し、地球上の大陸を凌辱していくのですから。えげつない神の所業の前に人類はなすすべもありません。このような大異変が起きないと、人種差別や性差別はなくならないのでしょうか。
「名前を忘れた人のこと」高山羽根子
今は名前も思い出せないアジア系の芸術家は韓国人だったのでしょうか。知らないでいようとすることは、優しさのせいなのか、弱さと無知のせいなのか。そんな気持ちを抱えて生きることを恐ろしいと思える主人公の、なんと健全なこと!
「水泳する人」パク・ソルメ
人々が冬眠をするようになった世界で、語り手が夢と現の世界を行き来します。短編集『もう死んでいる十二人の女たちと』を思わせる作品です。
「モミチョアヨ」星野智幸
かつて公衆の面前で女を殴っても咎められなかった国が、今は女が男を大声で𠮟りつけるようになりました。女に怒鳴られてうなだれてこそ「本物の韓国男子」なのです。韓国フェミニズムと韓国男子を揶揄した、ちょっと危ない作品に思えるのですが・・。
2024/7