旅の歴史は繰り返されます。
これだけでは、何の話かわかりませんね。どうやらこの本は、カフカの短編小説に登場する永遠の漂泊者「狩人グラフス」をモチーフにした「旅」の物語のようです。より正しくは、旅先の異国にて体験した異様な(もしくは異様と錯覚した)戸惑いと、目を眩まされるような想いを描いた作品のようです。
従って、4つの旅で登場人物が見聞きするものは、異様な雰囲気に満ちています。サイコロ遊びをする二人の子供、港に入ってきた古びた小舟、二人の黒い上衣の男が運び降ろす棺、カフカそっくりの15歳の双子の少年、失われたパスポート、連続殺人の新聞記事・・。
目を眩ませる異様な事象は、決して旅先のことだけではありません。最後に語り手は、幼年期をすごしたチロルの村に帰郷を果たしますが、そこでの体験もまた謎めいているのです。同じガルダ湖を訪ねても、「太陽が燦燦と煌く美しい湖」との明るい印象しか持たなかった私とは、大きな違いですね。
2007/12