りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/11 イスタンブール(オルハン・パムク)

11月のベストは文句なしに『イスタンブール』。昨年ノーベル文学賞を受賞したトルコの作家、オルハン・パムクさんが、自らの人格形成に大きく影響を与えたイスタンブールの街を描ききってくれました。

次点にあげた須賀敦子さんの2冊は、どちらも、昭和29年という時代に渡欧した須賀さんが、ヨーロッパとどう向かい合ってどう生きてきたのか、時代の先駆者として、当時の欧州の厳しさと暖かさを垣間見せてくれます。

1.イスタンブール (オルハン・パムク)
イスタンブールに生まれ育ち、この街を誰よりも愛する著者が、この街の「憂愁(ヒュズン)」を描きます。自らの幼年時代から青春期までを自伝的に綴り、22歳の時の「作家になるよ、ぼくは」との決意で終わる本書の中で、イスタンブールを定義しようとするさまざまな試みが挿入されます。「不幸せとは、自分や自分の町を嫌悪することである」と語るパムクは、もちろん不幸ではありません。

2.時の娘 (ジョセフィン・テイ)
イギリス王政史上、最も悪名高いリチャード三世の肖像画を見て、犯罪者タイプではなく、誠実で悲しみに沈む男の表情だと見抜いた警部が、病床から歴史の通念に挑みます。50年以上も前に書かれた本ですが、いまだにみずみずしさを失わず、読者を歴史の旅にいざなってくれる本でした。

3.ネクスト (マイケル・クライトン)
ジュラシック・パーク』では、血液から恐竜の遺伝子を取り出してみせたクライトンですが、それから17年たった現在では、遺伝子に関する問題は現実のものとなってきています。遺伝子問題に関係するテーマを数多く含んだ群像小説ですが、「遺伝子特許の取得をやめさせよ」との著者の主張が強く伝わってきます。

4.風の果て (藤沢周平)
部屋住みの身から筆頭家老にまで上り詰めた主人公のもとに、旧友からの果たし状が届きます。出世の過程でいったいどんな出来事があったのか。浮かび上がってくるのは、策謀や収賄や権力闘争の問題というより、小藩の厳しい財政事情です。藤沢時代劇の集大成ともいえる一冊でしょう。

5.1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター (五十嵐貴久)
1995年。それぞれ悩みを抱えている40代のシロート主婦たちが、ロックバンドを結成してコンサートに挑みます。未熟な主婦バンドのコンサートへの出場は、無謀な挑戦に終わってしまうのでしょうか?主人公たちの本音ベースの会話と、テンポのいい展開がいいですね。主婦たちが「ロックンロール魂」をぶつけるラストは、ウルウルものです。




2007/12/6