りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

誠実な詐欺師(トーベ・ヤンソン)

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厳寒のフィンランドを舞台に、2人の女性の人生が交差します。聡明ながら両親を早くに亡くして貧しい25歳のカトリ。莫大な遺産と才能ある画家としての収入を持つ老女アンナ。

秘書としてアンナの屋敷に同居しはじめたカトリは、アンナの財産管理がずさんで、得るべき収入を得ていないどころか、周りの人々も彼女の財産を食い物にしていることを発見。カトリは屋敷に秩序をもたらし、アンナの収入を増やし始めます。そして財産を増やした一部を、自分の収入として蓄えていきます。もちろん、アンナの同意を得て・・。

ところがこの関係が、2人の自我に危機をもたらすんですね。アンナは人間不信に陥り、絵が描けなくなってしまいます。カトリは逆に人間の温もりに触れて、今までの生き方に自信をなくしてしまうのです。

カトリの連れている「名前のない犬」が象徴的に描かれます。それまでは決して甘やかされずカトリに服従していたのに、アンナに名前をつけられたとたん、誰の言うことも聞かなくなり、ついにはカトリをも襲おうとさえしてしまうのですから。

ムーミンの作者による、短い小説です。この本の主題は、ムーミンとはかけ離れているのでしょうか。どうやらそうではなく、ムーミン谷の住民たちだって「残酷なまでに誠実な」部分があるようにも思えるのですが・・。

2006/9