多筆のせいか、最近の作品はちょっと冴えない浅田さんですが、こういう作品を書かせたら、うまいなぁ。
夏の夜にふさわしい、怪談短編集です。でも、決して怖がらせるための怪談話ではありません。そこに描かれるのは、生者と死者のさりげない邂逅であり、此岸と彼岸を彷徨うものたちの、そこはかとない哀しみ。淡々と綴られる、ありふれた日常の世界の中に、じわっと異次元の世界が浸み入ってくる感覚とでもいうのでしょうか。7編とも秀作です。
母の実家である世襲の神主家の大伯母によって語れらた怪談を聞いた少年の、鋭敏な感覚がもたらした体験が印象に残ります。深夜、布団の中でまどろむ少年の傍らに潜りこんでくる女性。その女体が、母なのか、恨みを遺して死んだ女性のものなのか、そんなことはどうでもいい・・と、女体にすがりつく少年。
これらの怪談の感覚から日本的で神秘的な情念を取り去ると、「村上春樹ワールドに近い」という印象を持ってしまいました。逆に村上春樹の世界に情念を持ち込むと、怪談になるのかも・・。
2006/8