りぼんの読書ノート

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影の巡礼者(ジョン・ル・カレ)

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スパイ小説は数多くあるけれど、フォーサイスと並ぶ双璧はル・カレでしょう。イギリス情報部内部の「ソ連への内通者」を扱った『スマイリー3部作』や、ショーン・コネリー主演で映画にもなった『ロシア・ハウス』は傑作です。イスラエルとアラブの諜報戦に身を投じた女性を描いて、2つの民族とテロリストの悲劇に迫った『リトル・ドラマー・ガール』は大傑作です。

本書は、ベルリンの壁も崩壊し冷戦も終結した後の世界で、研修を受けるスパイの新人に向かってベテランが語る「闘いの年代記」。語るのが、既に引退したスマイリーというのが泣かせます。そこに、新人研修所チーフとなったネッドの思い出が絡みます。彼は『ロシア・ハウス』で、ショーン・コネリー扮する現地工作員に翻弄されてしまった本部の若手でした。

・最前線ベルリンで、諜報網を壊滅させて、突然姿を消した親友の話。
バルト海の諜報漁船を内通したとの罪に問われた、船長の恋人の話。
・役に立たない情報を送り続けてきた協力者にCIAからアメリカのパスポートを入手させた茶番劇の話。
クメール・ルージュに連れ去られた娘を求めてさすらう協力者の話・・などなど。

ひとつひとつが、「スパイという人生」を選んだ者がたどった、人生の物語になっています。やっぱりスパイには、米ソ両陣営が奇妙なルールの下で暗闘を繰り広げた「東西冷戦時代」が良く似合いますね。かつての「古き良きスパイ・ゲーム」は今や、ルール無用の「対テロリスト戦争」になってしまっているのでしょうから。

2005/3