りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ふたりジャネット(テリー・ビッスン)

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表紙の女性が可愛くて「お洒落な小説?」と思って借りたら、なんとSFでした。河出書房新社から知リーズで出版されている「奇想コレクション」というシリーズの1冊です。

常世界に空いた「落とし穴」を、ふと覗き込んでみる感覚の短編集。ところが「落とし穴」を覗き込もうが、はまり込もうが、人々の生活は何も変わらないんですね。

熊が森の中でキャンプファイアーを開いていても(熊が火を発見する)、有名作家が続々と南部の小さな街に移住しはじめても(ふたりジャネット)、ATMが人間に指示するようになっても(アンを押してください)、イギリスが大西洋を漂流しはじめても(英国航海中)、人々の日常生活は淡々と営まれていくのです。

「英国航海中」で、チャールズ国王の声明によって「英国の航海が公式に認められた」なんてところは笑っちゃいました。時間帯が変わるたびに、お茶の時間を変えなきゃいけないことは、もちろん大問題です(笑)。

ラスト3編は、万能中国人科学者「ウィルソン・ウー」シリーズ。宇宙が伸縮をはじめたり、時間が少しずつ盗まれていることを発見して、サラッと数学的に証明しちゃったりするのですが、わけのわかっていない友人が引き起こす騒動がきっかけで「宇宙の安定が保たれ世界は正常に戻る」という呆れた話。

この本はSFというよりも「壮大な嘘の話」なのかもしれませんね。単なる嘘なら、誰の生活も変わりませんから。SFの本質はこんなところにあるのかもしれません。違う意味で「お洒落な小説」でした。^^

2005/3