りぼんの読書ノート

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旅する帽子(ロジャー・パルヴァース)

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小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの日本滞在生活を小説にしたもの。

ハーンは明治中期に来日し、島根県松江の中学で英語教師を務めたあと、ジャーナリストなどを経由して、最終的には東京帝大で英文学教授になっています。この間、松江士族の娘であった小泉せつと結婚し日本に帰化していますが、教師としてよりも、日本の伝承を書きとめて小説にしあげた「怪談」の作者で有名ですよね。ほかにも、当時の日本の様子を紹介したエッセイを多数残しています。

ハーンは日本文化に傾倒し、小説・エッセイの形で「西洋化によって失われつつある、古き良き日本の伝統」を遺してくれたわけですが、この本では、彼自身が「西欧文化からのアウトサイダー」であり、「いずれの国にも属さない世界人」であったとしています。

ハーン自身、アイルランド人の父とギリシャ人の母を持ち、両親の離婚によって4歳で母と別れ、やがて7歳で父と死別します。その後、後見してくれた伯母の破産によって放浪の末に、アメリカにたどり着くのです。日本に来ることになったのは、ニューオリンズの万博で日本に好意的な記事を書き、日本紀行記の企画を持った出版社に派遣されたため。

本書は、ハーンが見聞きしたことを史実に忠実にたどりながら、その時々のハーンの心象を美しい文章で描写してくれています。そこに描かれているのは、日本への愛情と、欧米文化へ傾倒する日本人への複雑な思い。さらには、欧米人にも日本人にもなりきれない自分への屈折した感情。

訳文の素晴らしさもあって、美しい小説に仕上がっています。作者は京都在住のオーストラリア人だそうです。ハーンの心情に、自分の思いを重ね合わせていることは、言うまでもないですね。

2005/2